ケガで練習を休んでいたわが子が、いよいよ復帰。
「よかったね」と送り出したいけれど、どこか元気がない。
「もう治ったんだから、前みたいにやればいいのに」と、つい言いたくなる――。
ケガからの復帰は、体だけでなく心にとっても大きな出来事です。
この記事では、スポーツ心理学の研究をまとめた資料をもとに、ケガをした子の心の動きと、親ができる関わり方を考えます。
この記事のポイント
- ケガの直後には、落ち込み・不安・焦りなどの反応が出やすいとされる
- 支えが一番必要なのは、受傷直後は「家族」。
復帰が近づくと、指導者やチームメイトへ移っていく - 気持ちの整理は急がせない。
体が治っても、心の準備に時間がかかることがある
ケガをした子の心に起きていること
日本アスレティックトレーニング学会誌に掲載された、国士舘大学の秋葉茂季氏の論文では、これまでのスポーツ心理学の研究がまとめられています。
それによると、ケガをした直後には、落ち込み(抑うつ)、不安、焦りといった反応が代表的とされています。
ほかにも、否定的な気持ちが大きくなる、元気がなくなる、これからの競技生活への不安が出る、といった反応も挙げられています。
こうした反応は、時間がたてば少しずつ減るとは限らず、休んでいる間ずっと高いままだったという報告もあるそうです。
また、気持ちが混乱して、復帰に向けて何をすればいいか考えられなくなることもあると書かれています。
なお、この論文で紹介されている研究には、大学生やトップレベルの選手を対象にしたものも含まれます。
小・中学生にそのまま当てはまるとは限らないので、「こういうこともある」という目安として読んでください。
見分けるヒント:「体は治った」のに元気がないとき
論文では、体は十分に治っていても、現場に戻ることへの不安や、心からくる痛みを訴え続ける選手もいると紹介されています。
また、周りが「アスリートは明るく元気」というイメージを持ち、選手自身もそれに応えようとするあまり、つらさを表に出さずに抱え込んでしまうケースがあることも指摘されています。
子どもが「大丈夫」と言っていても、それが本心とは限りません。
怒ったり落ち込んだりするのも、大切な過程
ケガを乗り越えた学生アスリートへの聞き取り調査では、受傷直後は怒りなどの否定的な気持ちを外に出し、そのあと変えられない現実に気づいて、受け入れる段階へ進んでいく流れが示されています。
論文は、気持ちの混乱を外に出すことは、周りには迷惑をかけているように見えても、その後の変化に向けて必要な段階とも言える、とまとめています。
イライラしている姿を見ると心配になりますが、すぐに「そんな態度はやめなさい」と止めなくてもいいのかもしれません。
時期によって、必要な支えは変わる
論文で紹介されている研究では、ケガで休んでいる期間を「受傷」「リハビリ・回復」「復帰」の3つの段階に分けて、選手が求める支えの違いを調べています。
- 受傷直後:家族の支えを最も必要とする
- 復帰前:チームメイト、トレーナー、コーチへと、頼る相手が変わっていく
- 支えの中身:なぐさめや、物や手伝いによる支えは回復につれて必要性が減り、復帰が近づくと、技術的なアドバイスや評価が求められるようになる
また、周りの支え(ソーシャルサポート)は、落ち込みや怒りの状態から、ケガを受け入れる方向へ進むのを助けているとされています。
家でできること:段階に合わせた声かけ
資料の内容をふまえて、声かけの例を考えてみました。
お子さんの様子に合わせて、使えそうなものを選んでください。
ケガをした直後
- 「悔しいよね」「痛かったね」と、気持ちをそのまま受け止める
- 原因探しや反省会は、急がない
リハビリ中
- 「今日はどんなことをやったの?」と、取り組んでいることに関心を向ける
- 「いつ戻れるの?」と、こちらから先を急がせない
復帰が近づいたら
- 技術や体の状態についての具体的な話は、指導者やトレーナーに任せる
- 家では「戻れてうれしいね」と、復帰そのものを一緒に喜ぶ
練習との付き合い方:体力は「時間をかけて」戻す
日本サッカー協会は、活動を長く休んだあとの子どもたちについて、思った以上に体力が落ちていることがあり、体力や筋力が落ちた状態で急に激しい運動をするとケガのリスクが高まると注意しています。
正しい理解のもとで、時間をかけて必要な体力を戻していくことが大切とされています。
「早く取り戻さなきゃ」という焦りは、子どもにも親にもあるものです。
復帰のペースは、医師やトレーナー、指導者と相談して決めましょう。
病院に行く目安
- 復帰したあとに、痛みがぶり返す・続く
- 「治った」と言われたあとも、痛みや不安を訴え続けている
- 落ち込みが長く続き、食事や睡眠、学校生活など、ふだんの生活にも影響が出ている
体の痛みは、ケガを診てもらった医師に相談しましょう。
気持ちの面が心配なときも、まずはかかりつけの医師などに相談し、必要に応じて専門家につないでもらうと安心です。
保護者ができること
- 「大丈夫」をうのみにしない。つらさを隠していることもあると知っておく
- 気持ちの整理を急がせない。論文では、先を急がず、十分に思い悩む時間があった方が望ましい場合もあるとされています
- 話を聞く役に回る。経験をふり返り、話し直すことを、人とのやり取りの中で行うことが大切だと書かれています
- 役割を分ける。家族は気持ちの支え、復帰に向けた具体的な取り組みは指導者やトレーナー、と考えると関わりやすくなります
よくある質問
Q. 落ち込んでいるので、励ましたほうがいいですか?
A. 励ましが悪いわけではありません。
ただ、研究では、落ち込みや怒りを経て受け入れに向かう流れが示されています。
無理に前向きにさせようとせず、まずは気持ちを受け止めることから始めてみてください。
Q. 復帰したのに、プレーが消極的です。
A. 体が治っても、復帰への不安が続く選手もいると紹介されています。
指導者と様子を共有し、痛みがあるなら医師に相談しましょう。
Q. ケガをしたことは、マイナスでしかないのでしょうか?
A. 論文では、ケガによる休止をきっかけに、つらい経験を強さに変えたと感じる、周りとの関係がよくなる、といった変化が見られた研究も紹介されています。
そうした変化につながった選手の多くが、周りからの支えを感じていたそうです。
まとめ
- ケガのあとは、落ち込み・不安・焦りなどが出やすく、すぐに消えるとは限らない
- 受傷直後は家族の支えが大切。
復帰が近づいたら、具体的な助言は指導者やトレーナーへ - 体力は時間をかけて戻す。
痛みや心配が続くときは、医師に相談
参考資料
- 秋葉茂季「長期活動休止時や再開時の心理面での課題や対策」日本アスレティックトレーニング学会誌 6巻2号(2021)
- サッカーファミリーの心と体の健康のために JFAフィジカルフィットネスプロジェクトより指導者、保護者の皆さまへ|日本サッカー協会
この記事は、上記の資料をもとに、保護者の方向けにわかりやすく書き直したものです。
痛みや不安があるときは、医療機関で相談してください。
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