怪我をしたときの対処法は、長い間研究されてきました。
ここでは、それぞれの対処法がどのように発展してきたかを年代ごとに説明します。
目次
アイシングの歴史
ICE
最初に登場したのが「ICE」という方法です。
この方法は1970年代に広まりました。
- I – Ice(冷やす):冷やして炎症を抑えること。冷やすことで血管が収縮し、炎症を減らすことができます。
- C – Compression(圧迫):包帯などで圧迫して腫れを抑えること。
- E – Elevation(挙上):怪我した部分を高く上げ、血液やリンパ液の流れを抑え腫れを減少させること。
RICE
次に登場したのが「RICE」です。
この方法は1978年にドクター・ゲイブリエル・ミルチョンが提唱しました。
- R – Rest(安静):怪我をした部分を休ませること。
- I – Ice(冷やす):冷やして炎症を抑えること。
- C – Compression(圧迫):包帯などで圧迫して腫れを抑えること。
- E – Elevation(挙上):怪我した部分を高く上げ、血液やリンパ液の流れを抑え腫れを減少させること。
PRICE
RICEにさらに1つのステップを加えたのが「PRICE」です。
この方法は1990年代に広まりました。
- P – Protection(保護):怪我した部分を守ること。たとえば、サポーターやギプスを使って怪我した場所を保護します。
- R – Rest(安静):怪我をした部分を休ませること。
- I – Ice(冷やす):冷やして炎症を抑えること。
- C – Compression(圧迫):包帯などで圧迫して腫れを抑えること。
- E – Elevation(挙上):怪我した部分を高く上げ、血液やリンパ液の流れを抑え腫れを減少させること。
POLICE
次に登場したのが「POLICE」です。
この方法は2012年に提唱されました。
- P – Protection(保護):怪我した部分を守ること。
- O – Optimal Loading(最適な負荷):怪我した部分に適切な負荷をかけることで、早く回復させるという考え方です。完全に休ませるのではなく、少しずつ動かしていくことが大切です。
- L – Rest(安静):怪我をした部分を休ませること。
- I – Ice(冷やす):冷やして炎症を抑えること。
- C – Compression(圧迫):包帯などで圧迫して腫れを抑えること。
- E – Elevation(挙上):怪我した部分を高く上げ、血液やリンパ液の流れを抑え腫れを減少させること。
PEACE & LOVE
最近の研究で、怪我をしたときの対処法として「PEACE」と「LOVE」が提案されました。
これは、2019年に広まり始めた新しい考え方です。
- PEACE:Protect(保護)、Elevate(挙上)、Avoid Anti-inflammatory drugs(抗炎症薬を避ける)、Compress(圧迫)、Education(教育)
- LOVE:Load(負荷をかける)、Optimistic(楽観的になる)、Vascularization(血流をよくする)、Exercise(運動する)
PEACEアプローチ(急性期の対応)
- P – Protect(保護)
- 怪我をした部位をさらに悪化させないように保護することが重要です。
- 怪我直後の48〜72時間は、過度な動きを避けるためにサポートやスプリントを使用することが推奨されます。
- E – Elevate(挙上)
- 怪我をした部位を心臓より高く上げることで、重力を利用して腫れを減少させることができます。
- 例えば、足を怪我した場合は、横になって足をクッションで高く上げると良いでしょう。
- A – Avoid Anti-inflammatory drugs(抗炎症薬を避ける)
- 抗炎症薬(NSAIDsなど)は、炎症を抑える一方で、自然な治癒プロセスを妨げる可能性があります。
- 可能であれば、これらの薬の使用を避け、体の自然な治癒力を信じることが推奨されます。
- C – Compress(圧迫)
- 怪我をした部位を包帯や圧迫バンドで圧迫することで、腫れを抑えることができます。ただし、血流を阻害しないように適度な圧力を心がけることが重要です。
- E – Education(教育)
- 患者自身が怪我の状態と治癒過程を理解し、適切な対応を行うことが重要です。
- 適切な情報提供により、過度な不安を軽減し、積極的な治療参加を促します。
LOVEアプローチ(亜急性期から回復期の対応)
- L – Load(負荷)
- 怪我が少し治まったら、徐々に適度な負荷をかけることが重要です。
- これは、早期に軽度の運動やリハビリを開始することで、筋力と機能の回復を促進します。
- 完全に安静にするのではなく、痛みが増さない範囲で動かすことが推奨されます。
- O – Optimistic(楽観的思考)
- ポジティブな思考や態度は、怪我の回復において重要な役割を果たします。
- 楽観的な視点を持つことで、ストレスや不安を軽減し、治癒を促進します。
- V – Vascularization(血流促進)
- 軽度の有酸素運動を取り入れることで、血流を促進し、組織の酸素供給を改善します。これにより、損傷した組織の修復が早まります。
- ウォーキングやサイクリングなど、痛みを伴わない軽い運動が推奨されます。
- E – Exercise(運動)
- ストレッチ、筋力トレーニング、バランス運動などを段階的に取り入れ、全体的な機能回復を図ります。
- これにより、怪我の再発防止と、元の運動能力への復帰が目指せます。
PEACE & LOVEにアイシングない理由
冷却によって出血と急性期の腫脹を抑えることで、一時的な痛みの緩和や炎症のコントロールが期待できますが、治癒の全過程を考慮すると、必ずしも治りが早くなるとは限りません。
冷却による短期的な効果
- 痛みの緩和:
- 冷却は神経伝達速度を遅らせ、痛みの感覚を一時的に軽減することができます。
- 急性炎症と出血の抑制:
- 冷却により血管が収縮し、初期の出血や腫れを減少させる効果があります。これにより、短期間での症状緩和が得られます。
長期的な治癒への影響
- 血流の制限と栄養供給の減少:
- 冷却によって血管が収縮するため、損傷部位への血流が減少し、必要な酸素や栄養素の供給が制限されます。
- これにより、組織修復が遅延する可能性があります。
- 炎症反応の重要性:
- 炎症は、免疫細胞の集結と損傷部位の修復を促進する重要なプロセスです。
- 冷却によりこのプロセスが過度に抑制されると、修復が遅れる可能性があります。
- 長期的な組織の強度と機能:
- 炎症が適度に維持されることで、線維芽細胞の活性化とコラーゲン生成が促進されます。
- これにより、修復組織の強度と機能が向上します。
まとめ
これまでの対処法は、1970年代のICEから始まり、保護や適切な運動を加えることで進化してきました。
最近では、体の自然な治癒力を信じて、無駄な治療や薬に頼らない「PEACE」と「LOVE」が提案されています。
短時間のアイシングは、適切に使用することで痛みと急性の炎症を一時的に緩和し、腫脹を管理するための有効な方法でもあります。
アイシングを行った後は、血流の回復を促進するための対策を取り、長期間にわたる酸素と栄養素の供給が妨げられないようにすることが重要です。
短時間の冷却では、血流が急激に低下するものの、冷却を中止した後数分以内に血流が回復し始め、20〜30分後にはほぼ正常な状態に戻ります。
これにより、酸素と栄養素の供給が再開され、組織の修復プロセスが再度活発化します。
PEACE & LOVEアプローチと組み合わせることで、最適な治癒環境を提供し、長期的な組織修復と機能回復をサポートすることができます。
したがって、アイシングは使い方次第で有効であり、適切な方法と組み合わせて使用することが推奨されます。
これらの方法を理解して、怪我をしたときに適切に対処しましょう!
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