最近、スポーツ選手の背中や肩に、丸い“あざ”のような痕がついているのを見かけたことはありませんか?
これは「吸い玉(カッピング)」と呼ばれる施術で、血流をよくしたり、身体をほぐしたりする目的でおこなわれるものです。
でも、その“あざ”って、本当に体にとっていいものなのでしょうか?
今回は、子どもアスリートの身体を守る視点から、吸い玉の本当の効果とリスクについて、わかりやすく解説します。
目次
吸い玉って、もともとは“血を出す治療”だった?
吸い玉は、じつは何千年も前から世界中で使われてきた歴史ある治療法です。
昔の中国やエジプト、イスラム世界では、「悪い血」や「たまった老廃物」を外に出すために、皮膚に小さくキズをつけてから、吸い玉で実際に血を出していたんです。
この方法は「瀉血(しゃけつ)」と呼ばれ、
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体の巡りを整える
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炎症や痛みを軽くする
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自然治癒力を高める
といった目的がありました。
いま流行している吸い玉は、ちょっと違う
最近は、皮膚を切らずに、ただ吸引するだけの「乾式カッピング」が主流です。
こちらは、
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吸引で皮膚を引っ張る → 毛細血管が切れる → 皮下出血(=あざ)ができる
という流れで、“目に見える痕”が残ります。
ただし、本来のような「血を出して悪いものを外に出す」ことはしていません。
つまり、見た目は同じでも、目的も仕組みも違うんです。
“あざ=効いている”は、本当に正しい?
吸い玉でできるあざを見て、「効いてるな!」と安心してしまうことがあります。
でも、それって本当に体にとって良いサインなのでしょうか?
実は、最新の研究では、次のような事実がわかってきています。
✅ 効果はある? → 一時的に「気持ちいい」と感じる程度
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筋肉のこりがやわらぐ
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血流がよくなる
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痛みが軽く感じる
といった効果を感じる人もいますが、それは一時的な反応であることが多いです。
実際、偽のカッピング(プラセボ)との違いがほとんどないという報告もあります。
🔬参考:Cramer H, Journal of Pain (2021)
「吸い玉の効果は、プラセボとほぼ同じか、差があってもわずか」
子どもの身体にとって“あざ”はリスクになることも
とくに育ちざかりのジュニアアスリートにとっては、吸い玉の“あざ”が思わぬリスクになることがあります。
① 組織が傷つく→動きにくくなる
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皮膚の下の筋膜や血管が壊れてしまい、体の滑らかな動きが損なわれることがあります。
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これが繰り返されると、筋肉や関節の癒着や、動きのクセにつながることも。
② 感染のリスクがある
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強く吸いすぎたり、清潔にされていない状態でおこなわれると、皮膚に菌が入り込むことも。
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試合前に体調を崩す…なんてことが起こると大変ですよね。
③ 見た目が残りやすい(色素沈着や皮膚の硬化)
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吸い玉をよくやる場所が、だんだんと黒ずんだり、硬くなってしまうこともあります。
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将来的に皮膚の感覚が鈍くなったり、パフォーマンスに影響する可能性もゼロではありません。
昔の吸い玉 vs 今の吸い玉|どう違う?
比べる項目 | 昔の吸い玉(瀉血) | 今の吸い玉(乾式) |
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方法 | キズをつけて血を出す | 吸うだけで血は出さない |
目的 | 排毒・巡りの改善 | リラクゼーション・血流促進 |
効果 | 炎症軽減や免疫調整も期待 | 一時的なこりや痛みの緩和が中心 |
注意点 | 衛生管理が必須 | あざ・癒着・感染に注意が必要 |
親御さんへのアドバイス|吸い玉を使うなら…
吸い玉は、正しく使えば“補助的なリカバリー”として役立つこともあります。
でも、以下の点には注意が必要です。
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あざを強く残すことが目的にならないように
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頻繁に繰り返さない(特に同じ部位に)
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試合前や大事な時期は避ける
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信頼できる専門家の指導のもとで使う
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できれば運動療法やセルフケアと組み合わせる
まとめ|見た目にまどわされず、“本当に必要なケア”を選ぼう
吸い玉は見た目のインパクトがあるため、「効いているように見える」ことがあります。
でも、実際には本来の目的や仕組みが変わっており、身体に負担をかけてしまうこともあるのです。
大切なのは、あざの色ではなく、子どもの身体がどう動くか、どう回復するか。
ケガを防ぎ、ベストな状態で競技に取り組むためには、地道なセルフケアや、日々の習慣の積み重ねが何よりのサポートになります。
📌 POINTまとめ(保護者の方向け)
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「あざ=効いてる」は間違い
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使い方によっては組織の癒着や感染リスクも
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信頼できるプロに相談を
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本当に大切なのは、日々のセルフケアと習慣作り
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参考文献
1. The effectiveness of cupping therapy on low back pain
-
掲載先:PubMed
-
公開日:2024年頃
-
概要:11件のRCT(921名)を含むメタ解析で、高~中のエビデンスがあり、痛みが短期的に有意に減少したことを報告(エフェクトサイズ d=1.09)
2. Evidence-based and adverse-effects analyses of cupping therapy in musculoskeletal and sports rehabilitation: A systematic and evidence-based review
-
著者:Ayman A. Mohamed 他
-
雑誌:Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation(2023年)
-
概要:筋骨格系スポーツリハビリに関する乾式カッピングの適応を評価し、柔軟性向上に「中等度」、痛み軽減に「低~中等度」のエビデンス、合併症は極めて低頻度と報告
-
URL:https://www.scopus.com/inward/record.uri?scp=85147045616 …
3. Evidence-based and adverse-effects analyses of cupping therapy in … [SAGEジャーナル版]
-
掲載先:SAGE Publications
-
公開日:2023年
-
概要:上記論文と同一で、低~中品質のエビデンス提示experts.illinois.eduen.wikipedia.org+6frontiersin.org+6frontiersin.org+6
4. Efficacy of cupping therapy on pain outcomes: an evidence-mapping study
-
掲載先:Frontiers in Neurology(2023年)
-
概要:14件のメタ解析をレビューし、首・腰・膝痛に対して“非常に低〜中等度”の質のエビデンスを認めるが、方法論上の限界が多いjournals.sagepub.com+1experts.illinois.edu+1pubmed.ncbi.nlm.nih.gov+3frontiersin.org+3frontiersin.org+3
-
URL:https://www.frontiersin.org/journals/neurology/articles/10.3389/fneur.2023.1266712/full
⚠️ リスク・副作用に関する文献
5. Cupping Therapy(StatPearls)
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公開元:StatPearls(2023年更新)
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概要:火傷、水ぶくれ、色素沈着、瘢痕、感染、貧血、頭痛、めまいなど各種副作用が列挙clinicalkey.com+2frontiersin.org+2frontiersin.org+2
6. Neurological Complications of Cupping Therapy
-
出版社:Karger(2025年頃)
-
概要:硬膜下出血などの神経系合併症を含む局所および全身のリスクを報告pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
7. Wikipedia “Cupping therapy”
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公開時期:2025年6月
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概要:毛細血管破裂によるあざのメカニズム、副作用(色素沈着、やけど、感染等)が整理されている
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